Thursday, November 24, 2005

11/23/05 古典落語「猫の皿」

 鑑定士が、古い茶店で一服していると、皿がございまして、これが高麗の梅鉢という、実に素晴らしい皿です。売れば300両はくだらないというもので、何でこんなところに、こんないい皿があるのだろうと思って、しげしげと見ていると皿に飯粒がついています。その側で猫がアクビをしているものですから、

「ははぁん、どうやら猫にこの皿で飯を食わせているようだ。そうすると、あの爺さん、この皿の価値が分かってないんだなぁ。ようし、なんとかふんだくってやろう。(猫を嬉しそうに抱き上げ)おお、よしよし。かわいい猫だ」
「お客さま、その猫は駄目ですよ。しっぽばかり長くって」
「しっぽが長くったっていいじゃないか。それで首を絞める訳でもないんだし。なぁ。(猫を顔のところに持ち上げて)『長くて悪いか』って言ってやれ。へへへ、ゴロゴロ言ってやがる。可愛いもんだねぇ。なあ爺さん、この猫くれねぇか。まだ他にもいるんだろう。1匹くれよ。ただで貰おうってんじゃないよ。鰹節代置いておこう。小判3枚で、これを売ってくれ」
「そんなに!」
「いいんだよ。気に入ったから買うんだから。(猫に話しかけて)なぁ、いいよなぁ。これから宿に帰って、うまいもん食わしてやるからな」
「どうも、この猫は幸せものでございますな。どうか、うんと可愛がってください」
「あぁ、可愛がるよ。子供もいないし。(そこで初めて気がついたかのように)この皿で、猫に飯食わせていたのかい?」
「えぇ、そうなんです」
「あ、そうかい。猫っていうのは神経質な生き物だから、皿が変わると食わないっていうから、この皿持っていって、これで食わせてやろう」
「それは駄目です。それは、こんなところに置いてありますが、高麗の梅鉢と言いまして、300両くらいにはなるんです。こっちの茶碗でも食べますから、これを持っていってください」
「(いまいましそうに)知ってたのか。それじゃあ、どうしてそんな高価な皿で猫に飯なんか食わせるんだい」
「へぇ、そうしておくと、時々猫が3両で売れますんで」


引用:
古典落語 志ん生集 ( ちくま文庫)
古今亭 志ん生(著), 飯島 友治 (編集)

No comments: